事業承継税制は、先代の経営者から次代の後継者に円滑に事業承継することを目的としている。同税制の適用に当たって、贈与者は贈与の前に会社の代表権を有し、贈与時にはその代表権を失っていることが求められ(措令40の8@等)、経営承継受贈者は贈与時において代表権を有している必要がある(措法70の7A等)。
会社法上、株式会社は取締役を最低1名置かなければならず(会社法326@)、非取締役会設置会社では原則、各取締役がそれぞれ代表取締役となる旨を規定している(同法349@A)。また、取締役会設置会社では、取締役会の決議により取締役の中から代表取締役を選定するが(同法362B)、その人数については制限の定めがない。そのため、会社によっては代表取締役が2名以上存在するなど、経営承継受贈者となりうる者が複数存在するケースも考えられる。
この場合、会社の代表権の有無は法律上の名称に基づき判断されるため、会社の定款等に「代表取締役」との登記があれば、“社長”や“副社長”といった役職名にかかわらず、複数の代表取締役のうち1名が経営承継受贈者となることができる(措法70の7A等)。
例えば、代表取締役“社長”であるAが息子Bに株式を贈与して事業承継税制を適用しようとする際、経験の浅い息子Bではなく経験豊富な役員Cを代表取締役“社長”に、息子Bを代表取締役“副社長”や“専務”とした場合でも、それぞれ定款等で代表権を有していることが明確であれば息子Bへの贈与に事業承継税制を適用することが可能だ。
なお、「複数の代表者が共同して会社を代表する」など、定款等で経営承継受贈者の代表権に制限を加えてしまうと、贈与時に会社の代表権を有していたとは認められず、事業承継税制が適用できなくなる。
税務通信令和6年9月9日号より
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