証券会社等に上場株式等の資産運用を任せる「投資一任口座(ラップ口座)」。ラップ口座は、契約期間が1年ごとの自動更新で、口座の保有者に相続が生じた際には自動的に解約され、上場株式等が売却される仕組みのものが目立つ。ラップ口座の保有者に相続が生じ、相続人が得る上場株式等の売却益が譲渡所得に該当する場合は「相続税の取得費加算の特例」を適用できる。
本特例は、相続で取得した財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額をその譲渡所得の取得費に加算できるもの(措法39)。譲渡所得のみに適用され、その財産の譲渡による所得が事業所得や雑所得に該当する場合は本特例を適用できない。
株式等の譲渡による所得が事業所得又は雑所得、若しくは譲渡所得のいずれに該当するかは、株式等の譲渡が「営利を目的として継続的に行われているかどうか」により判定する。一般的に上場株式等は流動性が高いため、基本的には営利目的で継続的に行われている取引として事業所得又は雑所得となる一方、所有期間が1年超のものは譲渡所得に区分するなどとされている(措通37の10・37の11共−2)。契約期間が1年で上場株式等の所有期間が1年以下となるラップ口座に係る上場株式等の売却益は、基本的には事業所得又は雑所得に該当する(国税庁質疑応答事例「投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分」)。
一方、口座の保有者の相続に伴い口座が解約されることにより、相続人が得る上場株式等の売却益は、相続人にとって相続により偶発的に生じた1度のみの売却によるものといえる。そのため、営利目的で継続的に行われている取引に当たらず、基本的には譲渡所得として本特例の適用対象になると考えられる。
ただし、相続が生じても口座が自動的に解約されないなど契約等の実態に応じて、譲渡所得に該当せず本特例の適用対象外となることもあり得るようだ。
税務通信令和6年10月7日号より
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